Virtual Architecture | shikano yasushi atelier

パノラマでHDR合成することについて

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今回は
サイトの引越し企画として、6年前に撮影して公開していた茅野市民館の主要施設のパノラマVRを再オーサリングしたものを公開します。この建物からぼくのパノラマのキャリアが始まったのですが、建物内外の連続、屋外で見上げた時の屋根の軒先や軒天井のディテール、逆光側の暗部などを無理なく表現するために、当初は知らなかったHDRを導入することになり、HDRとLDRと技法が異なるものが混在しています。ちなみに最近のものはほぼすべてHDR合成をしています。

実際には見えているのに写真だとハイライトで飛んだり暗すぎて潰れたりして、ディテールや階調がなくなるってことがあります。これは自然界と人間の目が感知する明暗の巾がカメラやモニタの能力よりも大きいからですが、これを解決する写真技法として考えられたのが、明暗を段階的に複数枚撮影して合成するHDR(ハイダイナミックレンジ)合成です。合成されたHDRイメージはそのままでは通常のモニタで表示できないため圧縮されます。つまり、結果的にモニタで見る画像は本来のHDRではなくLDR(Low Dynamic Range)とか,SDR(Standard Dynamic Range)と呼ばれるべきものですが、一般的にはこの圧縮されたものがHDRイメージと言われています。

本来は実際に見えているものを自然に見せるための技法ですが、圧縮時におそらくは色収差由来によるハイコントラストなエッジに発生するノイズや、そもそも圧縮であることが不自然とも言え、HDRを不自然で嫌いという人がいることもあながち間違っているとは言えません。ただ、ハイライトやシャドウの階調を描写することで、逆に全体のコントラストが弱くなったり、あるいは均質化されたりして、それが絵画調とかイラスト調と呼ばれる表現につながることで、絵作りの可能性が広がることもたしかでしょう。プリントして展示したり平面的にスクロールして見せるような場合はその方がよい場合もあります。

パノラマVRとして見せる場合は実際にその場にいる没入感や空間の奥行きも感じさせたいので、個人的にはあまりそうした絵画イラスト調に陥らないように心がけているつもりですが、このさじ加減はいつも悩みの種です。トーンマッピングされてコントラストが弱くなった画像にそのままコントラストをかけるとせっかく合成したのにトビツブレが生じるので、マスクで調整したりもします。順光も逆光もある中で空間構成や見えるものの色や形を少しメリハリをつけて表現したい、ただそれだけのことですが、HDRすべきかどうかも含めてスキルとセンスを問われている感じです。要は0~255の中に形の明暗や色調をどのように再構築するか、が問われているわけです。

先述した圧縮プロセスはトーンマッピングと呼ばれていますが、明暗の異なる画像合成は、Fusion Exposure とか、photoshopによるレイヤ合成など、他にもいくつか手法があります。現場で照明をコントロールすることもありでしょう。数年前にパノラマでHDRを使い始めたときは、最小限の労力で最大の効果を得たいと思ったものですが、現場での露光設定の悩みが多少減るだけで手間は増えるし、素材は揃っても料理が難しいことには変わりがなく、そういう難しさを知ることが出来ただけでもHDRをやった価値があるのかもしれません。

スナップを撮るようにパノラマ撮影するスキルも一方で欲しいし、様々な技法や機材を状況や目的に応じてうまく使い分けられるようになりたいものです。

茅野市民館パノラマVRまとめページ



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