Virtual Architecture | shikano yasushi atelier

QuickTimeVRで出来ない事

空間体験をコンピュータ上で表現するためのツールとしてフルスクリーンのQTVRは非常にすぐれたツールだと思っていますが、欠点もあります。
それは画面の中で視点移動、たとえば前へ進んで見回すこと、などができないという事です。ズーミングはできるので、正面から近づいたり遠ざかったりする事は出来ますが、撮影ポイントを中心として見回した画像のため、見る角度が固定され、また、あくまでもそのVR空間の中に限られてしまっているので、例えば、そこに扉があったとして、その扉を開けて、外へ出て行く事ができないのです。実際、QTVRという技術について知らない人から、「どうして移動できないんだ?」「どうして扉が開けられないんだ?」などのある意味もっともな質問を受けた事があります。RPGをやりなれていたら、よけいそう思うかもしれません。

ホットスポットというリンクボタンを画像上に仕込んで、それをクリックすることで、別の画面にジャンプさせる事は比較的、容易に出来るのですが、別のウインドウを開くことになるので、切り替わりの画面設定を注意深く作ったとしても、どうしても唐突感があり、連続的な移動イメージをつくるのがすごく難しい。
また、建築のデザインにたずさわる者としては、その空間と次につながる空間の境界部分というのは、デザイン的に非常に重要なので、その部分がシンプルに上手く表現できるといいのですが、これがなかなかできない。表現したい部分の写真を複数枚用意して、アニメーションにしたりしてVRとVRの間に挿入する、あるいは、VR上でマウスがロールオーバーしたときに、もとのVR画像を消さずに別の画像をフローティングさせるような事が簡単にできるソフトがあればいいのですが、あまりそういったものはないようです。LiveStageProというソフトが、QuickTimeをインタラクティブなコンテンツにするオーサリングソフトとしては有名なようですが、これは高価な上に使いこなすのが難しいようです。

さて、最近、
「COULD」というサイトで知った情報ですが、バーチャル空間での視点移動を可能にしてくれるかもしれないものとして、マイクロソフトとワシントン大学のコラボレーションによるPhotosynthというプロジェクトがあります。写真を3次元的にレイアウトして、それを視点移動しながらブラウズできるようです。

http://labs.live.com/photosynth/video.html
http://labs.live.com/photosynth/videodemo.html


じつはこのPhotosynthのデモを見てすぐに思い出したのですが、
PhotoWalkerというプロジェクトがあります。写真を紙芝居のように見せていくのですが、ちょうどホックニーのコラージュ写真をアニメーション化したような感じでしょうか。
見たらわかると思いますが、PhotoWalkerでは写真は基本的には二次元的に扱われていて、画面切り替えを3次元的にすることで、視点移動のイメージを作り出しています。Photosynthのデモを見る限りPhotosynthでは写真が3次元的にレイアウトされているように見えるので、その辺が大きな違いかもしれません。
また、別のたとえとしては、
Sticherという、写真を3次元的にレイアウトし、それを貼り合わせてQTVRを作るためのソフトがありますが、QTVRなので撮影ポイントを中心としたパンニングしか出来ない・・、でも、これが視点移動できるようになれば、Photosynthのイメージに近いかもしれません。

本当に動画のように軽快に動作するか、そもそも大量の写真を用意するのは大変な作業ではないか。たとえばデモに見られるほどの写真を大量に撮影するのであれば、複数箇所でVRを作ってリンクさせて表現する手間と比べて、それほど変わらないのではないか。もしかしてネット上で画像をエントリーさせて、その写真を使うという事なのだろうか。などなど不明な点も多々ありますが、期待度も高い。これがアップルのプロジエクトでない事が残念なくらいです。

◆◆◆

実は、そうはいってもQTVRについては、見せ方や、インタラクティビティの工夫をする余地というか、可能性がまだまだたくさんあると思っていまして、大げさな技術ではありませんが、いくつか実験的な作品を作っているので、旧作ですが参考までに改めて取り上げようと思います。

「in and out」
VRを2画面にレイアウトすることで隣接する空間を同時に表現しようと考えた作品。
「mosaic vr」
いっぺんに全部見せることによるイメージもあるのでは、というベタなアイデア。
「マップにプロットされたQTVRで見る茅野市民館」
これはよくある手法なのですが、オマケということで。


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