Virtual Architecture | shikano yasushi atelier

26年目の「ザ・スズナリ」



 東京下北沢には
本多グループの劇場が6つあるが、今回紹介するザ・スズナリはこのうち最も古い劇場で、開館は1981年、昨年25周年を迎えた。元々アパートとして使用されていた建物を改造した小劇場で、劇場として使われる前も含めると築39年になる。当初は同時期に建設中だった本多劇場のリハーサルや稽古場を目的として改造されたが、いろんな劇団から稽古場だけではもったいないという意見がでて、結局今のような公演主体の劇場になったという。1階は昔も今も小さな飲食店などが入っていて、2階は全部で20室ほどのアパートだったのを間仕切りをなくし、鉄骨で構造補強して劇場としている。最初の改造では間仕切りをなくした天井の低い平土間空間であったのだが、改造を重ねた現在では、舞台も元の床レベルから下げて高さを確保し、結果として下階を奈落倉庫とし、切穴を設けて演出や搬入にも使えるようにしている。また、客席も固定席ではなく座布団敷きだが段床としている。劇場部分は元アパートであったことなどはほとんど感じられないが、狭い廊下や畳敷き四畳半の楽屋などにその面影を感じることができる。

ザ・スズナリをQuickTimeVR(パノラマ写真)でみる

正面
受付
ロビー
舞台
楽屋
調整室
奈落倉庫入口付近

 先日紹介した川崎市アートセンターで燐光群「ワールドトレードセンター」を見てきた。ちょっと前にスズナリでもやっていた芝居で、本当はスズナリで見ようと思っていたのに、せっかくだから新しい劇場で見ようかということで川崎に行ったのだが、やはりスズナリで見ておくんだったと、ちょっと後悔した。全体に整理されていない消化不良のような印象で、単純な話に整理できるようなテーマでないことはわかるが、それでもその重さを作家も役者も表現できていないような気がした。坂手洋二の書く批評には興味深いものがあるのだが、それを演劇で表現するのにはやはり別の難しさがあるということなのだろう。
 さて、川崎とスズナリでは何が違うのか。何から何まで違うのだが、ここではその大きさについて書いておこうと思う。川崎は214席で、今回のスズナリは230席とほぼ同数だが、大きさを比べるとスズナリの方がかなり小さい。ちなみにスズナリは舞台、客席を含めて間口6960奥行き16,110舞台高さ4150で、川崎は舞台間口11,450、奥行きは約19m(列数、通路から想定した寸法)舞台高さ8,500である。例えば唐十郎が
紅テントでわざわざ天井面を低く設定しているのを見てもわかるように、演劇においては役者と観客の距離感や空間全体のスケール感がその質に大きく影響があるわけで、小さいあるいは低いということが必ずしも欠点にならず、むしろ場合によっては小さいことの方がいいこともあるというのは、スズナリを見てもよくわかる。観客の快適性や演出の可能性などを考えると空間全体が大きくなり川崎のようになるのは理解が出来ることで、つまりは単純な善し悪しの問題ではないのだが、同じ客席数でも大きさあるいは密度の違いが演劇の質に大きく影響があるということを建築家も演劇の作り手もよく考えるべきだとは思う。





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