阿久根市民交流センター・風テラスあくね

Concert Hall,Hall,TheatreNASCA,円形配列

左:阿久根 右:鹿島

鹿島市の鹿島市民文化ホールを当サイトで紹介したのを機に、鹿島の原型とも言える鹿児島県阿久根市の阿久根市民交流センターのホール計画について改めて紹介します。
尚、ここで使用している写真は全て、写真家の淺川 敏 氏の撮影によるものです。

建築概要

設計 古谷誠章+NASCA
用途 ホール
構造 RC+S
規模 地上3
敷地 22,010㎡
延床 3,229.14㎡
竣工 2018.10

公式サイト

阿久根は当初、フライズと音響反射板がある通常形式のホール計画であったが、予定していた補助金が得られなくなり、VEで調整できるものでもなかったので、設計のやり直しとなった計画である。コストが大幅に削減されたため、当初は一緒に計画されていた図書館が将来計画1になり、交流室と呼ばれていた小ホールが取りやめとなった。それでもさらにコストを抑制する必要があり、フライズ・音響反射板なしのアイデアが考案された。つまりその後の氷見、鹿島につながる最初のホールということになる。計画上のポイントは鹿島市民文化ホールの記事で示した次の6つのポイントとほぼ同様なので、内容については鹿島の記事を参照されたい。

多目的・タイムシェアリング
ループするホール空間・もみあげ席
非対称の空間
コンサートホールの多目的化・フライズ・プロセニアム・音響反射板がないホール
開いて外とつながるホール・劇場の広場化
自然採光


多目的・タイムシェアリング・楽屋

楽屋は裏方と考えられることが多いが、最近はホールイベントで使用していない時は、日常的にいわゆる貸会議室として様々な用途で使えるようにすることが増えてきている。ここでは、自然採光を取り入れ、楽屋以外の用途のときは窓側の鏡は取り外せるようにしている。

もみあげ席・ループする空間

下手の脇花道的なスペースから舞台、上手のもみあげ席から2階のサイドギャラリーへの連続するループする空間。この下手のスペースは客席への入口でもあるため、状況によって移動間仕切壁やカーテンなどで仕切ることができる計画としている。

非対称の空間・自然採光

下手側で自然採光している点は鹿島と同様だが、ここでは客席後方で採光している。これは天井が鹿島と違い後方から舞台に向かって緩やかに下がっていく勾配天井になっているので、それを生かして後方からの採光としている。また、客席規模が鹿島の751席に対して阿久根では541席と小さいので、通常は客席天井の中央部分にあるシーリングギャラリーは後方に計画している。同様にフロントサイドの照明も通常は多段式になるところをギャラリーに横に照明を並べる方式としている。これは市民利用が多いので安全性や使いやすさを優先した結果である。

コンサートホールの多目的化・フライズ・プロセニアム・音響反射板がないホール

幕を設置していないコンサートホール形式。通常は見えない舞台設備が設置されているスノコが直接見えている。写真では舞台後方扉が開いているが、上演時は閉じることができる。また下手の外壁のガラスも暗幕カーテンで暗転することも可能。その際の残響の変化についても問題ないことが検証されている。

幕を設置した演劇形式。舞台後方扉、下手の外壁のガラスについては上述の通り。

開いて外とつながるホール・劇場の広場化

舞台後方を外のロビーから見た様子。舞台全体を見る大きな開口部ではないが、演出で演者の登退場として使うとか、舞台芸術以外の展示、ロビー、ラウンジ、広場的に使う場合は下手と合わせてホールへのアクセス性をよくして可視化することでホールをより日常的に使うことを期待した計画としている。

ロビーの様子。写真右側が舞台後方扉(閉じた状態)、左側の曲面の壁は展示用の壁である。

下手の外壁はガラスで自然採光できる計画としているが、この外壁の反対側には中庭を介して図書館が計画中である。この図書館ができると、図書館とホールが「見る見られる」の関係になって図書館に来た人がホールへ意識を向けるようになってホールでの市民の文化活動がさらに活発になることが期待されている。

最後に、設計中に検討用に作成した3Dモデルからパノラマを出力して、記事中で使用した写真をホットスポットとして埋め込んだものを紹介する。設計中の未完成な3Dモデルなので所々に完成時との違いがあることはご容赦いただきたい。写真だけでは得られない空間の雰囲気や質のようなものが感じられれば幸いである。

パノラマVRで見る



引き続き加筆修正予定

  1. 現在、設計条件を見直しながら設計中である ↩︎