鹿島市民文化ホール・SAKURAS
佐賀県鹿島市の鹿島市民文化ホール・SAKRASについて、パノラマVRで紹介します。
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画像について
紹介するパノラマ画像は設計を担当したNASCAに設計協力したことで、竣工検査の時期に記録として私が撮影したもので、公開については鹿島市から了解を得ている。厳密には工事中であるためほとんど完成に近いが、ブルーシートやカラーコーン、資材や整理中の備品などが映り込んでいることをご容赦いただきたい。尚、パノラマツアー内で使われている、開館後の様子の写真はナスカに提供していただいている。
パノラマVRについて
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敷地
敷地は佐賀県鹿島市の市庁舎と図書館などが入った生涯学習センター・エイブルの間にあり、各施設が連携し相互補完するように、旧市民会館と市内既存の民俗資料館を統合した新築である。
建築概要1
鹿島市民文化ホール公式サイト

2階平面図
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以下、専門的なことも含まれるが、ホール計画上のポイントを挙げておく
ホールの特徴・計画上のポイント
多目的・タイムシェアリング
地方都市の公共ホールではよくあることだが、コストと延面積の制限が厳しく、必要な機能諸室の合計延面積で計画することが難しく、必然的に各室、各スペースはホールも含めて多目的になり相互補完しながら非日常的なホールイベントだけではなく、日常的な来館者を増やして利用率を上げる意図で計画されている。

ホールの廊下が郷土資料展示としても使われている様子
裏のないホール計画・ループするホール空間・もみあげ席
ホールを中心として1Fはロビー、ホワイエ、楽屋などのホール機能、2Fはホワイエ、練習室、民俗資料展示がホールを取り囲む形で様々な機能が共存しループ状につながることで施設全体を裏がない、表裏関係なく体験できる計画としている。またループはホールにもつながり、下手(しもて)2の脇花道から舞台、上手(かみて)3の通称もみあげ席で2階へ、さらに舞台を取り囲むギャラリー席へとつながり、椅子の配置も円弧状にすることで、舞台と客席の連続、演者と観客、観客同士の一体感を意図した空間となっている。

非対称の空間
ここでは下手の脇花道と呼応する形でもみあげ席を計画し、上述したループのコンセプトと合わせて劇空間として演出の可能性を拡げて、よりダイナミックな演出が期待されている。

コンサートホールの多目的化
フライズ・プロセニアム・音響反射板がないホール
このような施設はプロセニアム型の劇場に音響反射板を備えることで音楽に対応、多目的化するのが通常の考え方であるが、ここではその逆にシューボックス型コンサートホールに幕を設置することで演劇、多目的化している。そのためプロセニアムとフライズ、音響反射板がなく、コストを抑制している。
プロセニアムは幕で形成し、他に必要な幕も全て脱着を容易に短時間でできるよう工夫して舞台空間を形成する。
フライズとは、ふつうは客席からは見えないが、舞台上部にある音響反射板や緞帳などの幕類、照明バトンなどを収納するための空間で、舞台間口の高さと同じ高さ以上の空間だが、これがないため幕類がないと客席からはスノコ(ブドウ棚)の下面が見えている。音響上、天井面は15m程度に抑えられるので、結果的にスノコは13m程度の高さになり、6m程度の高さの道具を上部に収納することができるが、この高さが制限されることがこの形式のデメリットであるが、プロセニアム高さが6mほどであってもこの客席規模であればさほど大きな問題にはならないと判断して採用されている。

幕がないコンサートホール形式

幕を設置した劇場形式
下手は写真では明るくなっているが暗転して舞台袖として使う
開いて外とつながるホール・劇場の広場化
ホール下手は交流ラウンジと名付けられた多目的なスペースと隣接している。ホールはシューボックスで計画されているため演劇利用時に舞台袖のスペースが不足する場合はこの交流ラウンジを舞台袖として使用する。ホールと交流ラウンジは移動間仕切壁で仕切られており、状況に応じて開閉し一体利用と単独利用を可能にしている。舞台袖として使う以外にも、ロビーラウンジ的な利用から展示やイベントもできるように音響照明の設備を備えている。こうした設備はホワイエにもあり、ホール以外のスペースでの演出を可能にしている。また交流ラウンジに客席を配置すれば舞台を横から見るアリーナ的な空間を形成することもでき、式典のように人数を増やしたい時の客席の拡張スペースとしても意図している。

交流ラウンジを展示スペースとして使っている例

交流ラウンジをホールと一体化して客席を拡張している例
外壁のガラスはジッパー式カーテンで完全遮光している
自然採光
開口部は遮音が低下すること、演出上、暗転する必要があること、天井は舞台照明用のシーリングギャラリーやフォロースポット室がありその取り合いが難しいこと、壁は音響的に有害なエコーを生じさせない形状や仕様にする必要があること、以上の様々な理由でガラスの開口部を計画することが難しい。しかし、古くは有名なウイーンのムジークフェラインのように自然採光を取り入れた例もあり、近年の省エネ的な観点からも自然採光を取り入れる例が増えており、ここでも客席上部に9角形平面のハイサイドライトを計画し自然採光を取り入れ、暗転はカーテンで対応している。

天井見上げ写真
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以下参考資料
NASCA設計による他のホール事例
茅野市民館を皮切りにNASCAが設計したホール設計の全てで協力させていただいているので、これを機に他のホールについてもポイントだけ取り上げておく。ちなみにパルテノン多摩(改修)も協力させていただいたが、改修なのでここでは省略する。
茅野市民館(2005)
氷見市芸術文化館(2022)
阿久根市民交流センター(2018)
茅野と氷見、阿久根と鹿島、これらは似たコンセプトで計画されている。
阿久根は鹿島と違い、舞台後方を開いてロビーとつながる計画である。上手にもみあげ席があり、下手に花道的な広がりのあるスペースがあり、移動間仕切壁、カーテン、暗幕でコントロールする点は鹿島と同様だがホール内動線なのでホールイベントがある時は、この下手のスペースを別の目的で使用することができない点が鹿島との違いである。詳細はリンク先の記事でご確認いただきたい。

左:阿久根 右:鹿島

阿久根の幕をセットした状態
撮影 浅川敏
氷見では客席の両サイド、茅野では客席の後方を開ける様にして、隣接空間との一体的利用を可能にし、さらに客席床を分割してエアキャスターで移動できる様にしアリーナにもできるアダプタブルシアタとして計画している。約500人分の段床客席をエアキャスターで動かし舞台と客席を自由に配置し、さらにホール外に席を設置することも可能にしている。こうした例は転換に手間がかかるせいか他にほとんどないが、市民ワークショップによる議論や舞台技術などの専門家の意見を取り入れながら実現している。


茅野市民館マルチホールの客席後方を開いた状態
段床客席は舞台側に収納して客席は平土間化している。
客席後方はロビーがありその向こうは中庭、イベントスペースがある。

氷見芸術文化館の客席サイドを開いた状態
左側は多目的スペース、写真右側はロビーで客席一部をロビーに配している状態

氷見市芸術文化館のアリーナ形式
エアキャスタでアリーナ形式にしている。茅野も同様のことができる
最後に自然採光について
茅野市民館のマルチホールでは自然採光はないが、コンサートホールでは舞台後方を開閉できるようにして自然採光を可能にしている。

茅野市民館コンサートホールの舞台後方の開閉可能な開口部
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脚注
- 鹿島市民文化ホール
建築概要
用途 : 集会場・観覧場
構造 : RC+PC+S
規模 : 地上4F
敷地 : 6,040.35㎡
延床 : 2,646.80㎡
設計着手 : 2018年11月14日
工事着工 : 2021年 3月24日
竣工 : 2023年 5月31日
総事業費 : 3,091,657 千円
建築主体工事 : 2,017,345 千円
機械設備工事 : 257,323千円
電気設備工事 : 239,547 千円
舞台設備工事 : 430,683 千円
設計・監理業務委託 : 146,759 千円
建築主体工事
松尾・中島・髙木建設共同企業体
電気設備工事
九電工・岡田電機建設共同企業体
機械設備工事
九電工・橋口管工社建設共同企業体
舞台設備工事
株式会社 サンケン・エンジニアリング
設計・監理業務
有限会社ナスカ
↩︎ - 舞台を見て左側を下手(しもて)という ↩︎
- 舞台を見て右側を上手(かみて)という ↩︎