バービカンシアター
ベルリン、エルプとコンサートホールを紹介したので、今度は演劇劇場をGSVで紹介します。
バービカンシアターとは1982年に開館したロイヤル・シェイクスピア・カンパニー(RSC)のロンドンでの公演拠点。
バービカンシアターの断面図を日本の一般的な多目的ホールと重ねてみるとその違いは衝撃的ですらある。日本の基準では縦通路がないホールは計画できないなどの基準による制約があること、舞台間口がこの規模のホールとしては通常は18mのところが約22mとやや広いということなどを差し引いたとしても、1000席を超えるホールで舞台框から最後部まで20mを下回っているというのは大変興味深い。ちなみに身振りやセリフを認識できる可視限界距離の第一次許容限度が22mである。

このようなことが可能になっているのは、普通はバルコニー席は後方にセットバックしていくが、バービカンではバルコニー席が舞台側にオーバーハングしていること、バルコニーの階高を極端に抑えていることで可能になっている。そのことによるデメリットとして、最上部の見下ろし角度が40度超でかなり急になっている。また、音響的には舞台から近いのでセリフが聞き取りやすい反面、空間ボリューム(気積)が小さくバルコニー席には吹抜側天井からの反射音が届かないため、生音重視のクラシック音楽などで豊かな響きを得るにはには不向きだと思われるが、これは演劇のための劇場なのでその点は問題ない。
生音に不向きだとしても電気音響ならどうか。最近の民間のホールでは主階を平土間にしてスタンディングライブ対応しつつ、ライブ以外の平土間イベントに対応するホールがよく見られるが、そういうホールで演劇的なイベントを上演をすると平土間ゆえに、中央の席なのによく見えないという問題が発生する。平土間に迫りや客席可変システムを導入して、バルコニーをバービカンのように最大視距離を抑える計画ができれば、「よく見える多目的大規模ホール」が実現するのではないだろうか、と思うがどうか。
バービカンのような断面が他にないのは、何か問題があって模倣されないのか、単に設計者の想像力不足や怠慢なのかわからないが、劇場・ホールの専門家としてはまだまだ考えること、気がついていないことがあるのではないかと思わなくもない。
ちなみに、RSCの劇場をもう一つ貼っておきます。こちらはスワン座、グローブ座のような伝統的なシェイクスビアシアター。