Virtual Architecture | shikano yasushi atelier

展示空間記録とヴァーチャルミュージアム・展示空間パノラマのジレンマ

entrance


今年最初のエントリが早稲田の演劇博物館での企画展「広場をつくる・広場を動かす~日本の仮設劇場の半世紀~展」で、その後も演博の企画展を継続して撮影したり、最近では大唐十郎展もあり、何かと展示のパノラマVRについて考えた一年でした。

いわゆるヴァーチャルミュージアムとしては
Google Art Project があります。空間を丁寧に記録再現するというよりは、パノラマをインデックスとして扱って、作品を別ウインドウで表示する仕組みです。これはこれで理解できる手法ですが、自分としてはやはり作品と作品の置かれている空間はセットで考えたいという気分もあります。そういう展覧会がそもそも好きだっていうこともありますし、美術館、博物館という施設には建築家の空間に対する考えも表現されています。もちろんケースバイケースだし、展示空間の記録撮影・再現には制約や限界もあります。ガラスへの映りこみ、あちこちに配置される照明、色調の再現、解像力の限界など、真正面から取り組むには技術的に難しいことがたくさんあります。ただ、 個人の手作業でやる以上、google のようにオートマチックにやってもしょうがないとも思うのです。

「広場をつくる・広場を動かす~日本の仮設劇場の半世紀~展」

大唐十郎展(パノラマまとめ)
大唐十郎展(ブログ記事)

広場展は依頼された撮影ではなく、お願いして撮影させてもらったということもあって、時間も限られた撮影だったので映り込み対応など一切の手は加えず、あるがままの空間を撮影しています。記録であれば「あるがまま」で問題ないという見方もあるし、このときも割りきって(だけど工夫しながら)撮影しましたが、あらためて見ると気になる部分もあり、悩ましいです。

似たような話として、Googleのおみせフォトで行きつけの店を見た時のことなんですが、普段、照明の暗い中に最小限のスポット照明で雰囲気のいい店なのに、撮影のためなのかわざわざ目一杯明るくしていて、もう雰囲気ぶちこわしで「これはひどい」レベルなんですが、商用の場合などは、きれいに見せるっていうことも大事なのではないでしょうか。

もう一つ似たような話として、ミュージシャンの新曲を動画サイトなどでプロモーションする際にCDとの差別化のためなのか、わざと音質を下げるケースがあるようですが、商売上の理由とはいえ、アーティストの作品の質をわざわざ下げるということがどうも釈然としません。

もう終了した展覧会の記録と、常設の美術館、博物館のヴァーチャルミュージアムとは意味合いが違うことはわかりますが、何であれ見に行きたい、と思ってもらえるような絵にしたいと思う反面、行かなくてもいいやって思われるのもちょっと困る。行きたくてもなかなか行けない遠方の施設のヴァーチャルミュージアムはうれしいということもあるし、悩ましいですね。ちなみに美しいパノラマをたくさん公開しているヨーロッパの有名なパノラマサイトは旅行代理店がスポンサーだと聞いたことがありますが、そういうのが健全な態度だと思いたいものです。

blog comments powered by Disqus