Virtual Architecture | shikano yasushi atelier

身も蓋もない



HDR合成とか焦点合成とか、とにかく必要なだけ撮っておいて後でいいとこ取りをするとは、つくづく身も蓋もないと思いますが、これはこれで手間だしデリケートな部分もあるし、さじ加減ひとつでどうにでもなるところは、センスがモロに出てしまう言い訳のきかない技術でもあるわけです。一方で的確な露光設定で撮影して一枚のRAWから必要な情報を最大限引き出す術もまた必要なわけで、何かとやっかいなことであります。

今回のパノラマは、いま関わっている現場のものです。屋内ですが天井が高くサッシュもまだなので明るく、外壁部はブルーのネットや白いテント状の囲いで覆われていて光が柔らかくなっています。LDRでサクっといきたいところですが、ちょっと迷う状況です。今日はそんな画像処理の話。現場や建築の話は追々書こうと思います。

HDR合成→トーンマッピングされた画像を見慣れてしまうとLDR画像はちょっと物足りないものに見えてしまうこともありますが、仕事が巧妙でHDR合成処理されているのに自分が気がついていないだけ、実はHDR画像をたくさん見ているのでないかと思うこともあります。逆に、最近は、カメラの性能や処理するソフトが良くなってきていて、白トビや黒潰れに関して、HDRの必要性は低くなっているような気もします。どうしてもHDRせざるを得ないという状況もありますが、欲張らずに露光設定を慎重にすれば、わざわざHDRにする必要はそれほどあるわけではありません。それに、ぼくのHDRパノラマ術はAEB1step9shootを個別にHDR合成からトーンマップしたうえでステッチするのが基本ですが、カメラ、雲台、三脚が重量級で、自分としては行くとこまで行ってしまった感があり、もうちょっと軽量のセット、つまり一脚のパノラマ術の再考の必要性を感じてもいるわけです。

最初にお見せするパノラマはHDRをしていないLDRによるものです。

某現場 091204


Nikon D5000、10.5mmfisheye、水平8枚上下各1枚、AEB1step3shoot、一脚(上下は手持ち)でRAW撮影しています。AEBが1stepなのはHDRにするつもりがなかったからで、AEB本来の考え方です。また、必要なら部分的にアンダーもしくはオーバーの画像を混ぜてステッチするのもありだと考えてのことです。実際、もっとも暗い部分の画像は明るいものに差し替えてステッチしています。通常6枚でもステッチ可能なのに8枚撮っているのは一脚の場合は重ねが多い方がステッチ結果が良いのではないかということと、なるべく順光だけ、逆光だけのアングルを作らないようにして、これも必要なら段階的に明るさを変えてステッチできるようにするためです。以前はどうせ逆光に向きあって全周撮るのだからどこから撮っても同じ、だったらということで、建物やモノに対して正対するようにアングルを決めていましたが、なるべく光源に正対しないとか、明と暗を同じ構図に入れるようにするといったことも大事ではないかと、その方が後で調整しやすいし、また、いったんポジションを決めたら決めた角度でファインダもろくに見ないで撮影するのではなく各アングルが適切かどうか、人の動きや光の具合を判断したり、必要なら決めた角度だけでなく小刻みに撮ることも必要だと、今更何言ってるの? てな感じですが。

LDRでインテリアのパノラマ撮影するときは、ハイライトを残しつつややアンダーで撮って少し明るく持ち上げるのですが、最初から全体を明るく調整するのが前提というのもどうかと思うのです。まあ、微調整にとどめるのが大人の判断というものなんでしょうが。このパノラマもNikon NX2の現像時にD-ライティングというシャドウとその彩度を持ち上げる補正をかけていますが、シャドウの解像感や色彩をやや損なった分、明るさとコントラストで調整しています。難しい状況なので自分としては及第点と思いたいですが、どうしても若干の不満を拭い去ることが出来ません。

で、この際、以前と状況も変わっているので、久しぶりにいろいろ試してみました。

・1枚のRAW→HDR


PhotomatxでRAWから擬似的にHDRを生成してそれをもとにトーンマップするとこのシャドウ側の色が残る感じなので、その点、擬似HDRとはいえメリットがありますが、逆に解像感や質感を損ない、ハイライト周りのハイコントラストな部分にノイズが生じるなどのデメリットがあるのでNG。

・3枚のRAWから9種類の明暗違いを生成しCS4でレイヤの自動合成


Photoshop CS4の「レイヤの自動整列」はPhotomatixのAuto Align、「レイヤの自動合成」はExposure Fusionのようなものでしょうか。明暗差が大きすぎるとマスクの境目がわかってしまいますが、細かくすれば自然な仕上がりになります。ただ、手間がかかることと調整するには自動生成されたマスクを編集するしかないというところがパノには向かないようです。

・3枚のRAW→HDR



シャープだけ施してTiffを生成、HDR合成、トーンマッピングした上でステッチ。1step3shoot程度のHDRでは効果はそれほど期待出来ないのではないかと思っていたのですが、一見コントラストが弱いように見えるかもしれませんが、ハイライトやシャドウをLDRと比較するとやはりこちらのほうが階調が豊かで明るく見えます。ちなみに各RAWから±1/3、9種の明暗画像を生成した上でHDR、トーンマッピングしたものも作ってみましたが大差ありませんでした。3shootによるHDRは以前は2step決め打ちでしていましたが、1stepでもLDRよりいいとなると、もうちょっと煮詰めていく必要がありそうです。

某現場 091204 (HDRバージョン)


さて、最後に身も蓋もない話をもうひとつ。
いつか「そんなめんどくさいことをするより暗い部分にライティングした方が早いじゃん」というツッコミを受けるのではないかと心配していたのですが、幸い今に至るまでそういったことはありませんでした。そこで、ようやく重い腰を上げてパノラマをストロボを使って撮るテストを始めました。いろいろと難しい点もありますが、少なくともステッチにムラが出るようなことはなかったので、何とかなるかもしれません。「建築は自然光で撮るべし」とか「パノラマはあるがまま撮るべし」といった考えには同感なのですが、あまり固苦しく考えて現場で柔軟に対応できないのもどうかと思うし、これしかないというよりは選択肢はあった方がいいですからね。



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